日本郵政と日本郵便の違いについて、どっちが親会社でどっちが郵便局の運営主体なのか、あるいは就職や年収における格差や上場に関する疑問を持つ方は多いはずです。私たちが普段利用している郵便局のサービスや、現場で働く社員のみなし公務員としての扱い、さらには苦情の連絡先まで、複雑なグループ構造を明確に整理したいと考えました。
私自身、かつて就職活動をしていた頃に「JP」というロゴがついた会社がいくつもあって混乱した経験があります。「郵便局」で働きたいならどこを受ければいいのか、あるいは投資先として考えるならどの会社を見るべきなのか。実はこれ、単なる名前の違いではなく、会社の存在意義そのものが全く異なる別組織なんです。
この記事では、普段あまり意識することのないグループ内部の「階層構造」や「お金の流れ」まで踏み込んで、徹底的に解説します。

💡記事のポイント
- 持株会社と事業会社の決定的な役割の違い
- 平均年収や就職難易度に見る待遇の格差
- 投資家視点で見る上場企業としての立ち位置
- 現場で働く社員の法的地位と公務員規定
日本郵政と日本郵便の違いをわかりやすく解説

- 企業規模と上場における決定的な差
- 持ち株会社と事業会社の役割分担
- 民営化の歴史から見る組織の変遷
- 不動産や病院事業を担う運営主体
- 苦情や問い合わせ先の明確な区別
- 投資家が知るべき株価と配当の関係
同じ「JP」のロゴを掲げていても、この二社は役割も立ち位置も全く異なります。まずは、グループ全体を統括する「頭脳」としての日本郵政と、現場で汗を流す「手足」としての日本郵便という構造的な違いから紐解いていきましょう。
企業規模と上場における決定的な差
日本郵政グループを理解する上で、最も基本的かつ決定的な違いは「上場しているかどうか」という点にあります。ここを混同していると、株式投資はもちろん、企業の社会的責任や経営の方向性を理解することができません。
まず、日本郵政株式会社(Japan Post Holdings Co.,Ltd.)は、グループ全体の頂点に君臨する純粋持株会社です。この会社は東京証券取引所プライム市場に上場しており、証券コードは「6178」が付与されています。つまり、世界中の投資家が株式を売買できる「パブリックカンパニー」としての性質を持っています。投資家が「郵政株」を買うと言った場合、それはこの日本郵政の株を指すことになります。
一方で、日本郵便株式会社(Japan Post Co., Ltd.)は、日本郵政が発行済株式の100%を保有している「完全子会社」であり、非上場企業です。一般の個人投資家が日本郵便の株を直接購入することはできません。なぜ日本郵便は上場していないのでしょうか?それには深い理由があります。
日本郵便は、郵便法に基づく「ユニバーサルサービス義務」を負っています。これは、採算が取れない過疎地や離島であっても、全国一律の料金で公平に郵便物を届けるという極めて公共性の高い責務です。もし日本郵便が単独で上場してしまうと、株主からの「利益をもっと出せ」「不採算地域から撤退しろ」という圧力に晒され、この公共的なインフラを維持することが困難になる恐れがあります。
そのため、あえて上場させず、持株会社である日本郵政の傘下に置くことで、グループ全体での利益調整を行いながら公共サービスを守るという構造になっているのです。上場企業の論理で動く親会社と、公共インフラの維持を至上命題とする子会社。この決定的な立場の違いが、両社の企業風土や経営判断にも色濃く反映されています。
ポイント:
一般の方が「郵便局の株を買いたい」と考えた場合、購入対象となるのは親会社である「日本郵政」の株式となります。日本郵便の株を直接買うことはできません。
持ち株会社と事業会社の役割分担
「日本郵政」と「日本郵便」の関係性は、典型的な「純粋持株会社」と「事業会社」の関係にあります。それぞれの役割分担を詳しく見ていくと、まるで違う会社であることがわかります。
まず、親会社である日本郵政の主な役割は、自ら郵便物を運んだり、窓口でお客様の対応をしたりすることではありません。その役割は、巨大なグループ全体の経営戦略の策定、ガバナンス(企業統治)の強化、そして子会社(日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険など)の株式保有を通じた経営管理にあります。
いわば、グループという巨大船団の進むべき方向を決める「司令塔」であり「頭脳」です。M&A(合併・買収)の判断や、グループ間のシナジー効果を最大化するための調整、さらには政府との折衝なども日本郵政の重要な任務となります。実際に日本郵政の本社オフィスに行っても、そこには郵便物の仕分け棚はなく、デスクワークに従事する経営企画や管理部門のスペシャリストたちが働いています。
対照的に、子会社である日本郵便は、完全なる「実働部隊」です。物理的な郵便局ネットワークの維持管理、郵便物・荷物の集荷や配達、切手や印紙の販売、そして銀行や保険の代理店業務など、私たちがイメージする「郵便局の仕事」のほぼ全てを担っています。
街で見かける赤いバイクやトラック、郵便ポスト、そして全国に約24,000局ある郵便局の施設そのものを管理・運営しているのは日本郵便です。現場で汗を流し、お客様と直接接点を持つのは、持株会社の社員ではなく、この事業会社の社員たちなのです。このように、「戦略を作る会社」と「実行する会社」という明確な役割分担が存在していることを理解しておくと、ニュースなどで「日本郵政社長が会見」したのか「日本郵便社長が会見」したのかによって、その内容の重みや対象範囲が違うことがわかるようになります。
民営化の歴史から見る組織の変遷
現在の「日本郵政」と「日本郵便」という二社体制を正しく理解するには、2007年の郵政民営化から現在に至るまでの、激動の組織再編プロセスを振り返る必要があります。実は、この歴史的経緯こそが、現在の組織が抱える複雑さの原因でもあるのです。
時計の針を戻すと、かつて郵便事業は国(郵政省〜郵政公社)が直接運営していました。それが小泉純一郎政権下の構造改革により民営化が決まり、2007年10月に発足したのが「5社体制」です。この時、持株会社である日本郵政株式会社の下に、「郵便事業株式会社(運ぶ会社)」、「郵便局株式会社(窓口の会社)」、「ゆうちょ銀行」、「かんぽ生命」の4社が並列するという形になりました。
ここで重要なのは、民営化当初は「運ぶ機能」と「窓口機能」が別々の会社に分断されていたという事実です。郵便事業会社は物流を担当し、郵便局株式会社は店舗運営を担当する。この縦割り構造は、現場に大きな混乱をもたらしました。
例えば、窓口で受け付けた荷物を配送部門に引き渡す際にも会社間の手続きが必要だったり、お客様からの問い合わせに対して「それはあっちの会社の担当です」といったたらい回しが発生したりと、サービスの質の低下が指摘されるようになったのです。また、同じ建物の中に別会社の社員が同居することで、指揮命令系統が複雑化するという問題も起きました。
こうした弊害を解消するため、2012年10月に法改正が行われ、郵便局株式会社が郵便事業株式会社を吸収合併する形で再統合されました。こうして誕生したのが、現在の日本郵便株式会社です。
つまり、現在の日本郵便は、かつての物流会社の機能と、窓口会社の機能が合体した巨大組織なのです。この経緯を知っておくと、なぜ一つの会社の中に、物流部門(旧事業会社系)と窓口部門(旧局会社系)という、文化や風土の異なる二つのグループが混在しているのかが深く理解できるはずです。
不動産や病院事業を担う運営主体

日本郵政グループのビジネスモデルは、郵便や金融だけではありません。実は、日本屈指の「不動産デベロッパー」としての側面を持っていることをご存知でしょうか?そして、この不動産事業の主導権を握っているのも、事業会社の日本郵便ではなく、持株会社である日本郵政(およびその直下の子会社)なのです。
郵便局は、歴史的に駅前の一等地や都市部の中心地に多くの土地を保有しています。しかし、郵便物の減少に伴い、巨大な物流スペースが不要になったり、施設の老朽化が進んだりしていました。そこで、これらの優良資産を再開発し、オフィスビルや商業施設として収益化する戦略が取られるようになりました。
その象徴が、東京駅丸の内口にある旧東京中央郵便局跡地を再開発した「JPタワー」と、その商業施設「KITTE(キッテ)」です。こうした大規模プロジェクトは、日本郵政株式会社が100%出資する子会社「日本郵政不動産株式会社」が中心となって推進しています。日本郵便が土地の持ち主(事業主)であるケースも多いですが、開発の企画・立案や実際の運営マネジメント(PM業務)は、不動産のプロフェッショナル集団である日本郵政不動産が担う構造になっています。
また、意外に知られていないのが病院事業です。日本郵政株式会社は、企業立病院として「東京逓信病院」を直接運営しています。これは旧逓信省時代の職域病院をルーツに持つ総合病院で、一般の方も利用可能です。かつては全国各地に逓信病院がありましたが、経営合理化の一環で多くが売却され、現在はグループのシンボルとして東京逓信病院が残っています。
このように、郵便サービスの提供義務に縛られる日本郵便とは異なり、日本郵政本体はグループのアセット(資産)を最大限に活用し、不動産や医療といった多角的な事業展開を通じて収益の柱を作ろうとしています。これは、減りゆく郵便収入を補うための重要な生存戦略でもあるのです。
苦情や問い合わせ先の明確な区別
日常生活の中で、郵便局のサービスについて「配達が遅れている」「窓口での対応に納得がいかなかった」といったトラブルに遭遇することもあるかもしれません。そんな時、どこに連絡をすれば話が早いのでしょうか?ここでも、持株会社と事業会社の区別が重要になります。
結論から言うと、郵便・物流・窓口サービスに関する苦情や問い合わせの窓口は、全て日本郵便株式会社となります。親会社である日本郵政株式会社のお客様相談室に連絡をしても、個別の配送状況や特定の郵便局員の態度については管轄外であり、詳細な事実確認ができません。
日本郵政はあくまでグループ経営を行う会社であり、現場のオペレーションには直接タッチしていないからです。そのため、親会社に電話をかけても、「担当である日本郵便のお客様サービス相談センターをご案内します」と転送されるか、かけ直しを求められるのがオチです。これでは、ただでさえイライラしている時に、さらなるストレスを抱えることになってしまいます。
具体的な連絡先としては、日本郵便が設置している「お客様サービス相談センター」のフリーダイヤルや、各郵便局の電話番号が正解です。特に、配送状況の確認などは、集配を担当する郵便局に直接問い合わせるのが最も確実でスピーディーです。
また、ゆうちょ銀行(貯金)やかんぽ生命(保険)の商品に関する苦情であれば、それぞれの事業会社(株式会社ゆうちょ銀行、株式会社かんぽ生命保険)が窓口となります。「郵便局で契約したから」といって日本郵便に文句を言っても、商品内容の詳細は銀行や保険会社側の管轄となるため、ここでも役割分担の壁が存在します。私たちがスムーズに問題を解決するためには、「誰がサービスを提供しているのか」を正しく認識し、適切な窓口を選ぶことが何より大切なのです。
覚えておきたい連絡先:
配送や窓口対応へのご意見は、日本郵便の「お客様サービス相談センター」または最寄りの郵便局へ。持株会社の本社へ連絡しても解決には時間がかかります。
投資家が知るべき株価と配当の関係
もしあなたが投資家として「日本郵政グループ」を見るなら、その収益構造がいかに歪(いびつ)で、同時に興味深いものであるかを知る必要があります。株価や配当の原資がどこから来ているのかを分析すると、日本郵政と日本郵便の関係性がよりシビアに見えてきます。
日本郵政株式会社(6178)の収益の大部分は、実は本業の売上ではなく、子会社からの受取配当金によって支えられています。特に稼ぎ頭となっているのが、金融2社と呼ばれる「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命保険」です。これらの会社は巨大な運用資産を持っており、安定的に利益を生み出しています。日本郵政は、これらの子会社から吸い上げた利益を原資として、株主への配当を行っているのです。
一方、事業会社である日本郵便の収益構造は非常に厳しいものがあります。郵便物はデジタル化の影響で年々減少の一途をたどっており、逆にeコマースの拡大で増えている「ゆうパック」などの荷物は、ヤマト運輸や佐川急便との激しい競争に晒されています。さらに、配達には膨大な人手が必要な「労働集約型産業」であるため、人件費の高騰やガソリン代の上昇がダイレクトに利益を圧迫します。
投資家としての視点に立つと、日本郵政の株価は、日本郵便の物流事業の改善(コスト削減や値上げによる収益化)が進むかどうかも重要ですが、それ以上に「金融2社の株価や業績」に連動しやすいという特徴があります。また、日本郵政はPBR(株価純資産倍率)が1倍を割れることも多く、割安株として見られる一方で、成長性への懸念も常に付きまといます。
しかし、全国一律のネットワークという、他社が決して真似できない圧倒的なインフラを持っていることは事実です。このインフラをどう活用して、物流と金融以外の新しい収益源(不動産や新規事業)を育てられるかが、今後の株価を占う鍵となるでしょう。
※株式投資には元本割れのリスクがあります。本記事は特定の銘柄の購入を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
(出典:日本郵政株式会社「株主・投資家のみなさまへ」)
就職における日本郵政と日本郵便の違いと年収

- 平均年収に見る待遇の大きな格差
- 採用大学と就職難易度の実態
- 総合職はエリートですごいのか
- みなし公務員となる法的根拠と制限
- 激務でやめとけという評判の真偽
- 転勤の有無と勤務地の選び方
- まとめ:日本郵政と日本郵便の違いを総括
ここからは、就職活動や転職を考えている方にとって最も気になる「待遇」や「働き方」のリアルな違いについて解説します。同じグループ会社なら待遇も似たようなものだろう、と思ったら大間違いです。そこには明確な「階層」と「役割」の違いが存在し、入社する会社を間違えると、キャリアプランが全く違ったものになってしまいます。
平均年収に見る待遇の大きな格差
まず、誰もが気になるお金の話から始めましょう。有価証券報告書等の公開データを紐解くと、日本郵政と日本郵便の平均年収には、残酷なほどの開きがあることがわかります。
| 項目 | 日本郵政(持株会社) | 日本郵便(事業会社) |
|---|---|---|
| 平均年収 | 約864万円 | 約437万〜484万円 |
| 平均年齢 | 約43.3歳 | 約43.5歳 |
| 主な職種 | 経営企画・管理・専門職 | 郵便・窓口・物流・営業 |
ご覧の通り、日本郵政の平均年収は800万円台後半と、大手総合商社やメガバンクにも引けを取らない高水準です。これは、日本郵政の従業員数がグループ全体で見ればごく少数(数千人規模)であり、その多くが本社勤務のエリート社員や、高度な専門スキルを持つ中途採用者で構成されているためです。管理職比率も高く、必然的に平均給与が押し上げられます。
一方、日本郵便の平均年収は400万円台後半となっています。この数字を見て「低い」と感じるかもしれませんが、これにはカラクリがあります。日本郵便は全国に約19万人の正規雇用者を抱える巨大組織であり、その中には若手の現場社員や、一般職、地域基幹職といった多様な職種が含まれています。
特に、現業職(配達や窓口)は、基本給が抑えられている代わりに、営業手当や超勤手当(残業代)で稼ぐスタイルが一般的です。そのため、配属される局の忙しさや個人の営業成績によって年収が大きく変動します。日本郵便の総合職だけで見れば、30代で600〜700万円、管理職になれば1000万円を超えることも珍しくありませんが、全社員の平均となると、どうしても持株会社との差が大きく見えてしまうのです。
採用大学と就職難易度の実態
年収の差は、そのまま入社の難易度にも直結しています。採用の入り口である「就職偏差値」や「ターゲット大学」も、両社では全く異なる世界が広がっています。
日本郵政(持株会社)の総合職採用は、グループ約40万人(非正規含む)の頂点に立つ経営幹部候補生を選抜する場です。採用人数は毎年数十名程度と極めて少なく、その倍率は天文学的な数字になります。内定者の顔ぶれを見ると、東京大学、京都大学をはじめとする旧帝大、早稲田・慶應などのトップ私大がずらりと並びます。求められる能力も、論理的思考力、政策立案能力、語学力など非常に高いレベルであり、就職難易度は「69」とも評される超難関企業の一つです。
一方、日本郵便(事業会社)の採用は、もう少し門戸が広くなっています。もちろん、日本郵便の「総合職」も難関であり、上位大学からの採用が多いですが、採用人数は数百名規模となります。さらに、日本郵便には「地域基幹職」や「一般職」という採用区分があります。
地域基幹職は、転居を伴う転勤が一定のエリア(ブロック)内に限定される職種で、地域に根ざして働きたい学生に人気があります。こちらは採用数が千名単位と非常に多く、中堅私大(日東駒専・産近甲龍レベル)や地方国公立、さらには短大や専門学校からの採用実績も豊富です。面接では、学歴以上に「コミュニケーション能力」や「誠実さ」、「体力」といった人物面が重視される傾向にあります。
「どうしてもJPグループに入りたい」と考えるなら、自分の学歴や志向に合わせて、どの会社のどの職種を受けるか戦略的に考える必要があります。いきなり持株会社だけを狙うのは、かなりの狭き門であることを覚悟しなければなりません。
総合職はエリートですごいのか
就活生の間でよく議論になるのが、「郵便局の総合職ってすごいの?」というテーマです。結論から言えば、日本郵政本体であれ日本郵便であれ、総合職として入社することは世間一般的に見れば十分に「エリート」と言えるでしょう。しかし、その「すごさ」の質が少し異なります。
日本郵政の総合職は、まさに「官僚的エリート」です。霞が関の省庁と折衝したり、何千億円という規模の不動産開発を動かしたり、グループ全体の再編シナリオを描いたりと、仕事のスケールが非常に大きく、抽象度の高い業務をこなします。若いうちから経営に近い場所で働くため、視座の高さが求められます。
一方、日本郵便の総合職は、「現場を知る指揮官」としてのエリートです。入社後は、まず郵便局の現場(配達や窓口)を経験し、郵便局のリアルを肌で感じる期間があります。その後、支社や本社の企画部門、さらには大規模な郵便局の部長や局長としてキャリアアップしていきます。
彼らに求められるのは、全国津々浦々の現場スタッフ(その多くは年上のベテラン社員や期間雇用社員)をまとめ上げるリーダーシップと、泥臭い現場の問題を解決する実行力です。将来的に数千人の部下を持つ支社長や、地域の名士である特定郵便局長たちと渡り合う局長になるわけですから、人間力や調整能力という意味での「すごさ」が必要とされます。
どちらも優秀な人材であることは間違いありませんが、デスクワーク中心でスマートに働きたいなら日本郵政、現場と一体となって組織を動かすダイナミズムを感じたいなら日本郵便、という適性の違いがあると言えるでしょう。
みなし公務員となる法的根拠と制限

これから日本郵便への就職を考えている方が、絶対に知っておかなければならない法的知識があります。それが「みなし公務員」という規定です。これは単なる比喩ではなく、法律上の明確なステータスです。
郵便法第74条には、「会社の役員及び職員は、刑法その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす」と記されています。なぜ民間企業の社員なのに公務員扱いされるのでしょうか?それは、郵便物が「信書」という国民のプライバシーの塊であり、それを扱う業務には高度な公平性と秘密保持が求められるからです。
この「みなし公務員」であることによって、日本郵便の社員には一般の会社員にはない厳しい制約が課されます。
みなし公務員の主な制限とリスク:
- 贈収賄罪の適用: 仕事に関して、お客様や取引先から金銭や高価な物品(お歳暮やお中元など)を受け取ると、刑法の「収賄罪」に問われる可能性があります。これは非常に重い罪です。
- 公務執行妨害罪の対象: 逆に、業務中に暴行や脅迫を受けた場合は、相手に対して「公務執行妨害罪」が適用される可能性があり、法的に守られているとも言えます。
- 副業の制限: 公務員の「職務専念義務」に準じて、原則として副業は禁止または厳格な許可制となっています。最近は緩和の動きもありますが、YouTuber活動やアルバイトなどは厳しく審査されます。
- 争議行為の制限: ストライキなどの争議行為についても、公務員と同様に制限を受ける場合があります。
日本郵政(持株会社)の社員については、直接的に信書に触れる業務を行わない限り、この規定の適用関係は異なりますが、グループ全体のコンプライアンスとして高い倫理観が求められます。しかし、日本郵便の社員、特に現場に出る社員は、自分が「準・公務員」であるという自覚を持って行動しなければなりません。軽はずみな行動が、即座に法的な処罰に繋がるリスクがあるのです。
激務でやめとけという評判の真偽
インターネットで「日本郵便 就職」と検索すると、サジェストワードに「やめとけ」「激務」「きつい」といったネガティブな言葉が出てきて不安になるかもしれません。この評判の真偽について、客観的な視点から解説します。
まず、「激務」と言われる主な原因は、人手不足と営業ノルマにあります。特に郵便・物流コース(集配営業)では、Amazonや楽天などのEC荷物が急増しているにもかかわらず、配達員の数が足りていない局が多々あります。その結果、休憩時間が削られたり、残業が常態化したりするケースが見られます。また、夏のお中元や冬のお歳暮、そして年賀状シーズンなどの繁忙期は、文字通り「戦場」のような忙しさになります。
かつて社会問題化した「自爆営業(ノルマ達成のために社員自らが商品を購入すること)」については、会社を挙げて撲滅に取り組んでおり、以前よりは改善されていると言われています。しかし、営業目標自体がなくなったわけではなく、局や上司によってはプレッシャーがかかる場面も依然として存在するようです。
また、雨の日も雪の日も、猛暑の日もバイクを走らせて配達する業務は、肉体的にかなりハードです。体力に自信がない方にとっては、確かに「やめとけ」と言いたくなる環境かもしれません。
一方で、ポジティブな面も確実にあります。それは「圧倒的な雇用の安定性」と「福利厚生」です。どんなに不景気になっても郵便局が潰れる可能性は極めて低く、ボーナスもしっかり支給されます。育児休暇や介護休暇などの制度も整っており、取得実績も高いです。また、地域のお客様から「ありがとう」と感謝される機会も多く、地域貢献の実感が持てる仕事です。
つまり、「楽をして稼ぎたい」という人には絶対に向きませんが、「体を動かすのが好き」「地元で安定して長く働きたい」「社会インフラを支える誇りを持ちたい」という人にとっては、ネットの評判ほど悪い環境ではないと言えるでしょう。
転勤の有無と勤務地の選び方
最後に、キャリアプランを左右する「転勤」についてです。日本郵政グループへの就職を考える際、自分がどこで暮らしていきたいかを明確にしておく必要があります。
もしあなたが「総合職」を選ぶなら、数年おきの全国転勤は宿命です。東京の本社勤務の後に、北海道の支社へ異動し、次は九州の郵便局長として赴任する、といったダイナミックな異動が定年まで続きます。もちろん、引越し費用や社宅などのサポートは手厚いですが、家族がいる場合は単身赴任などの覚悟も必要になるでしょう。さらには、海外拠点への赴任の可能性もあります。
一方で、「地域基幹職」や「一般職」を選べば、転居を伴う転勤はエリア内に限定されます。例えば「関東支社管内」での採用であれば、その範囲内での異動はありますが、いきなり沖縄へ行けと言われることはありません。特に一般職であれば、自宅から通勤可能な範囲での配属が基本となるため、地元を離れずに生活基盤を築くことができます。
就職活動では、どうしても「総合職=勝ち組」というイメージに捉われがちですが、長い人生を考えたとき、転勤の有無はQOL(生活の質)に直結する重大な要素です。年収の高さや出世スピードを取るか、住む場所の安定と地域密着の生活を取るか。日本郵政と日本郵便、そして職種の選択は、まさにあなたの「生き方」の選択そのものなのです。
まとめ:日本郵政と日本郵便の違いを総括

ここまで、日本郵政と日本郵便の違いについて、組織構造から年収、働き方に至るまで詳細に見てきました。最後に、これまでの内容を総括します。
日本郵政は、グループ全体を統括する「戦略的頭脳」です。上場企業として市場の荒波に揉まれながら、M&Aや不動産開発、金融資産の運用を通じて利益を最大化し、グループの存続を図る役割を担っています。エリートが集う少数精鋭の組織であり、待遇もトップクラスですが、その分求められる成果もシビアです。
対して日本郵便は、全国のネットワークを守り抜く「現場的肉体」です。ユニバーサルサービスという法的義務を背負い、みなし公務員としての高い倫理観を持って、雨の日も風の日も手紙や荷物を届け続けています。待遇面では親会社に及ばない部分もありますが、地域社会になくてはならない存在としての誇りと、安定した雇用環境がそこにあります。
「営利を追求する親会社」と「公共に奉仕する子会社」。この一見矛盾するような二面性こそが、日本郵政グループの本質であり、面白さでもあります。就職を目指す方も、投資を検討する方も、あるいは一人の利用者としても、この違いを正しく理解することで、日本郵政グループという巨大な存在がより立体的に見えてくるはずです。
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